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2010年12月21日 (火)

片想いとゆずの香り

ゆずの実を、いただいた。そう、明日は冬至。

...

私が勤める健康管理センター(健康診断を行う施設)で、毎日、身長・体重の計測をしている女性がいる。

小柄で、素朴で、とてもやさしい笑顔が印象的な彼女。受診者さんひとりひとりに本当に心をこめてあたたかい対応をする。受診者さんもそんな彼女に計測されてきっと嬉しいだろう。

朝職場に着きそこを通ると、彼女はいつもとびきりの笑顔で「おはようございまーす」と私を迎えてくれる。
健診が落ち着いたお昼近くに通れば今度は「お疲れさまです」と、やはりキラキラの笑顔。次の健診に備えて検尿の紙コップを必死で数えているにもかかわらず、そして、私が、邪魔しちゃいけないと軽く頭をさげながら静かに通り過ぎようとしたとしても、それでも彼女は必ず手を止めてにっこりとほほ笑んでくれるのだ。

「今朝、ちょっと元気ないみたいだったけど、大丈夫?」彼女が言う。あぁ、今朝は彼女がちょうど受診者さんと話をしていたから、あいさつの声も小さめにして、さっさと通り過ぎてしまったっけ。いつもと少しだけ違っていた私の様子を気にしていてくれたんだ・・・。なんて気持ちのやさしいひとなんだろう。

彼女との交流は、朝一番と昼近くの2回だけ。交わす言葉もひとことだけ。ほんの一瞬なのだけど、いつしか彼女とのこの「ほほ笑み合い」は、私にはなくてはならない小さな楽しみになっていた。

そういえば、下の名前も知らないし住んでいる場所も知らない。それなのに、彼女のことがなんだかとても気になる。

そんなある日の昼休み。ふと気づくと、彼女がいつものようにほほ笑んで遠くから私を手招きしていた。午前中のみの勤務の彼女、かばんを持ち、帰るところらしい。
「さつまいもは、好き? 旅行のおみやげ、よかったらたべて。ひとつしかないから・・・」ないしょ話くらいの小さな声でそう言って、こっそりと、小さな包みを手渡してくれたのだ。

嬉しかった。とてもとても、嬉しかった。そして・・・わかった。はっきりと、わかった。この気持ち。彼女への想い。――それはきっと、片想い。そう、そうなのだ。いつも笑顔をくれる彼女に私はいつの間にか惹かれていたのだ。
思いがけずもらった小さなお菓子と彼女のあったかい心。あこがれのあの子に近づけた、ぴょんぴょんととび跳ねるようなこの気持ち。

そして今日。その日と同じように、彼女が私を手招きしてくれている。「ゆっくりお風呂につかってね」彼女の手には、小ぶりのゆずがふたつ、乗っかっていた。彼女の家で育てていたものだという。ひとつは緑の葉っぱが3枚ついていて、もうひとつはそれよりひとまわり小さなもの。まるで親子みたいな、それとも恋人同士かも。

そーっとにおいを嗅いでみる。ピュアでみずみずしくて、でもほのかな甘さが含まれたやさしい香り。彼女のやさしい心が、私の心のすみずみにまでしみ渡っていくようだった。ほかのだれにも見つからないうちに、私はそれをそっとかばんにしまった。

私にとっては、それが男性であっても女性であっても同じなのだ。ひとりの人を好きになっていくときのあの感じ。ひそかに想いを寄せていたひとに少しずつ近づいていく、ドキドキするこの感じ。つぼみだった桜の花が開いて一気にピンク色になるような、夕立ちが止み、一気に雲ひとつない青空が広がるような・・・。

ほほ笑みだけでつながることができていたことがとても嬉しい。それは、彼女だったから。彼女のほほ笑みがあったから――。

***

 わらい   金子みすず

それはきれいなばらいろで、
けしつぶよりかちいさくて、
こぼれて土に落ちたとき、
ぱっと花火がはじけるように、
おおきな花がひらくのよ。

もしもなみだがこぼれるように、
こんなわらいがこぼれたら、
どんなに、どんなに、きれいでしょう。

『わたしと小鳥とすずと JURA出版局 より』

***

明日はゆっくり、ゆず湯につかろう。彼女のくれた気持ちと一緒に――。

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