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2010年12月25日 (土)

イワシと翻訳~描ききるということ

おとといの夜テレビをつけていたら、偶然、私の大好きな金子みすゞさんの詩が登場した。

***

 大漁  金子みすゞ

朝やけ小やけだ
大漁だ
大ばいわしの
大漁だ

はまは祭りの
ようだけど
海のなかでは
何万の
いわしのとむらい
するだろう。

***

番組は、NHKのヒューマンドキュメンタリー「風の画家 “いのち”を描く」2010.12.23放送。

愛らしい子どもたちを繊細なタッチで描いた童画作品を数多く生み出している画家、中島潔さん。今回は、彼が5年かけて取り組んできた、京都・清水寺の襖絵46枚のうち評価の高かった「大漁」という作品スポットが当てられていた。

金子みすゞの詩「大漁」に魅了された彼が、その世界を絵にしていく。それ以前にも彼は「大漁」の作品を残していたが、今回は第4作目に取り組む様子が放送されていた。

「大漁」を描いていた途中に、彼は父親の死に遭遇する。身近な父親の死を目の当たりにした彼は、「何もわかっていなかった」と、これまでとは違う新たな「大漁」を描きはじめる。

これまで描いていたのは、死にゆくいわしと、そのいのちの儚さを寂しげに見つめる少女の姿。
しかし、そうではないのだと。「もう一度、生き返らせて書きたい」――これまで使わなかった鮮やかな赤をいわしの体に入れていく。体の中に流れる血を、“いのち”をふきこんでいく。大量のいわしが、死に絶える姿ではなく、いのちを持った姿で力強く描かれていく。

何度も何度も筆をとり、「大漁」という詩のなかに息づく“いのち”を描ききろうとする中島さんの姿がとても印象的だった。それは人生との、自分自身との闘いであるようにも見えた。

果たして、いま私が取り組んでいる、翻訳というものについてはどうだろうかと、ふと思った。原文にこめられた筆者の思いを、そこに息づくいのちを、描ききることができているのだろうか――。

中島さんは、父親の死をもってはじめて「何もわかっていなかった」と感じ、それまでとはまったく違ういわしを描くこととなった。それは、金子みすゞの「大漁」の文章をさらりと絵に置き換えることとはまったく違う。金子みすゞの思いを、自分のこれまでの人生すべてが含まれた心で何度も噛み砕くことによってしっかりとつかみきり、そこではじめて自分自身の表現で描きはじめる準備が整ったといえるのであろう。

翻訳の場合もそうなのではないだろうか。辞書を引き、言葉をあてはめてさらりと文章に置き換えることとはまったく違う。筆者の思いを、自分のこれまでの人生すべてが含まれた心で何度も噛み砕くことによってしっかりとつかみきり、そこではじめて自分自身の言葉で訳出できる準備が整ったといえるのであろう。

原文が、その書き手の人生であるとすれば、翻訳者もまた自身の人生をかけてそれを読み込み、訳文のなかに描いていかなければ本物にはなり得ない。ちょっと大げさかもしれないし、私は修行中の身で本1冊だって訳したことがないから全然わかっていないのかもしれない。でも、中島さんの、いわしに臨む姿勢は並大抵のものではなく、まさに「人生をかけた」姿だったのだ。

参考 NHKクローズアップ現代5月放送分 (動画で中島さんの描く姿といわしが見れます)

筆者の思いを描き切るために――。さあ今日も翻訳修行に励もう。机の上の勉強だけじゃなくって、本当に、毎日の生活からいろんなことを吸収して自分の心を豊かに育てててあげることも、本物の翻訳者になるための大切な修行だな!

クリスマスの夜に熱くなってしまいました・・・。これはきっと翻訳LOVE。「イワシと翻訳LOVE」。(どこかで見たことがあるこのフレーズ。でもにせもの。本物はコチラ→イワシの翻訳LOVE

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コメント

素晴らしい文章ですね。特にタイトルが(なんて)。

作者がその文章にかけた思いと、同じだけの思いをもって翻訳にとりくむ。なかなか簡単なことではないけど、その重みを感じれられる訳者でありたいと僕も思います。

いい文章をありがとう!

投稿: イワシ | 2010年12月26日 (日) 00時29分

イワシさん

ありがとうございます! 

素敵なタイトルだっただけについ熱くなってしまい、大きいことを言ってしまったのですが・・・。
いつか、作者の思いの重みを感じられる翻訳者になれるように、翻訳へのLOVEを忘れず
頑張ります!

投稿: どんぐり | 2010年12月26日 (日) 19時41分

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